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薬物乱用・依存をめぐる最新の知見を紐解きながら、わが国における薬物乱用・依存の現状を考察してきた本シリーズ。
最終回では、身近な治療薬の乱用・依存が拡大し、薬物乱用が「捕まる行為から捕まらない行為へシフトしつつある」ことを危惧される和田先生から、薬剤師が果たすべき役割、そして薬剤師への期待を語っていただきます。
薬物の乱用・依存というと、麻薬や覚せい剤に象徴される「使うこと自体が法により規制されている薬物の話」だと思い込みがちです。その結果、その使用自体が「犯罪」であり、取り締まり機関が対応すべきだと思い込みがちです。
しかし、病気を治療するために使われる市販薬・処方薬(くすり)にも乱用・依存問題があることを、本連載第2回に紹介しました。薬物乱用が原因で精神科病院に通院・入院した人の原因薬物としては睡眠薬が3番目に多いことは、第1回に紹介しました。くすりを乱用しても、そのくすりが麻薬指定されていない限り、使用者を法で取り締まることはできません。今日のわが国では、くすりの乱用・依存が増えており、「捕まる行為から捕まらない行為へ」とシフトしてきているのです。
使用・乱用が犯罪であろうがなかろうが、その結果としての薬物依存とは、脳神経系の異常に基盤を持つ障害である(連載第3回参照)ということを理解しましょう。
処方せんは医師によって書かれます。この処方せんに基づいて調剤し、くすりを患者さんに渡すのが薬剤師の役割です。この過程で、薬剤師にしかできない薬物乱用・依存防止のための大切な役割が2つあります。
1つは、その処方せんが正規のものかどうかのチェックです。偽造処方せんはこの数年で増加が目立ちますが(表)、(1)コピーされた処方せんである、(2)処方されていない医薬品を書き足してある、(3)処方日数や数量を書き換えてある、のいずれかが多いようです。東京都福祉保健局では、処方せんの偽造、変造防止の呼びかけを行っています(図1)。コピーすると予め隠してあった文字が浮き出す特殊な用紙を使った処方せんもあります。医療機関との連携が重要です。
2つ目は、くすりの重複処方の防止です(図2)。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部では、向精神薬の重複処方の実態を把握するために、埼玉県薬剤師会に加盟する保険薬局での管理薬剤師調査を行いました(2010年1~12月)。その結果、1178万3793枚の処方せんのうち6312件(処方せん合計枚数の約0.05%)の処方せんで重複投薬 ・ 相互作用防止加算が算定されていました(ただし、重複処方の内容は向精神薬に限りません)。その内訳は「処方変更あり」が5178件(重複投薬 ・ 相互作用防止加算総数の82.0%)、「処方変更なし」が945件、「処方変更の有無不明」が189件でした。その際、重複発見の根拠となったのは、薬剤服用歴の記録(薬歴簿)が78.2%、服薬指導が67.2%、おくすり手帳が60.5%でした。
薬剤師は医師と患者さんとの間に位置し、患者さんに直接くすりを提供する立場にいます。医師には話せなくても、薬剤師には話せる、相談できるという患者さんは大勢います。薬歴簿、おくすり手帳を利用した服薬指導を通して、患者さんと生の会話をすることが非常に大切です。
これら2つの作業を行えるのは、薬剤師しかおりません。薬剤師はくすりの適正使用に関するゲートキーパーだと言えます。

薬物の乱用は青少年期に開始されることがほとんどです。そこで、国の薬物乱用防止対策推進本部による第三次薬物乱用防止五か年戦略(2008年8月)では、「目標1」として「青少年による薬物乱用の根絶及び薬物乱用を拒絶する規範意識の向上」を掲げました。
これを受けて、文部科学省では、「すべての中学校及び高等学校において、年に1回は『薬物乱用防止教室』を開催するとともに、・・・警察職員、麻薬取締官OB、学校薬剤師等の協力を得つつ、その指導の一層の充実を図ること。なお『薬物乱用防止教室』は、・・・薬物等に関する専門的な知識を有する外部講師による指導が望ましい・・・。」薬物乱用防止教育の充実について(通知)20文科ス第639号。平成20年9月17日)との通知を出しています。
「ダメ。ゼッタイ。」とは、誰にでも言えます。しかし、薬物依存防止という文脈から薬物乱用防止を指導するには、薬物が持つ依存性、耐性などの知識を有した専門職の力が必要です。文部科学省が薬物乱用防止教室の講師として、外部講師の起用・活用を推し進めている理由もそこにあります。薬剤師の役割は、患者さんへの関わりだけではありません。若者の薬物乱用を予防するためにも、薬剤師の力が求められているのです。薬剤師は、薬物依存防止のための薬物乱用防止といった視点から活動できる数少ない専門家です。薬剤師の協力が必要です。
(Vol.15 No.3 2011年12月更新)