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2年間にわたる連載「あなたへのNarrative-based Medicine」のしめくくりとして、NBMを学ぶためのワークショップが、2006年10月21日、横浜市で開催された。薬剤師、医師、大学院生などの参加を得て、本シリーズ執筆者である村山隆之氏(御殿場石川病院薬剤管理室)による基調講演でNBMの現状と将来を概観するとともに、ワークショップ「アズ・イフ」でNBMの実践に触れた。

1998年に出版されたTrisha Greenhalghらの『Narrative based Medicine』が一躍脚光を浴びたものの、その概念が漠然としていることから、わが国では今日まで、広く臨床応用されるに至っていない。村山氏は「明確な定義が定まらないところにNBMの本質がある。なぜなら、個々の人間にとって、物語の捉え方はさまざまであり、ひと言で説明できるものではないから」とし、問題を定式化し根拠に基づくEBMの手法だけではうまくいかないことを多数経験しているからこそ、「NBM的なアプローチに期待している」と述べた。
村山氏は、すでに「NBMの時代」の到来を予感させる動きがあることを、英国でスタートしたDIPEx'日本国内の動きなどを含め、NBM実践の実例を紹介。また、NBMの担い手には、美しさを感じるセンス、物語の力、専門ではなく総合的なものの捉え方、共感を重視する姿勢、遊び心などが重要であることを強調した。
最後に村山氏は、NBM実践のための独自のアイデアを示した。ナラティブもエビデンスもあわせて、患者に変化を起こすための資源として活用し、小さなステップを積み重ねて目標達成を目指す方法で、村山氏はそれを「スモールナラティブ」と呼んだ。

基調講演に続き、ハーレーン・アンダーソンの技法に基づくワークショップ「アズ・イフ」が行われた。
事例には、薬が効かないなど文句が多いCOPD患者への薬剤師の対応が選ばれた。参加者は、提示された事例の関係者である「患者」「主治医」「薬局長」の誰か一人になったつもりで(あたかも)、事例に取り組む。同一の事例を異なる立場・視点で経験し、話し合うことで自己の意識や状況に変化を生む手法だ。
「COPD患者のSさんのことで相談があります」― 事例提示者は「あたかも」関係者が目の前にいるかのように、参加者が知っておくべき情報(患者背景、診断・処方、患者とのエピソードなど)を語る。さらに「不満や文句ばかり言う患者さんと会話を成立させるには?」「患者さんの物語が貧困な理由は?」「“薬が効かない”という言葉は、どのような意味・文脈で用いられているのか?」など、関係者への具体的な質問を投げかけた(プレゼンテーション)。
ほかの参加者は、しばらく目を閉じて「あたかも」役になりきって、事例提示者の話に黙って耳を傾ける(リス二ング)。その後それぞれの「あたかも」の立場から、自分の中に起こった反応を、同じ役割を与えられたグループごとに話し合う。その間、約40分。意見交換を重ねた後に、グループ内で出された多様な感想、意見、アイデア、アドバイスなどを代表者が参加者全員の前で話した(リフレクション)。

登場人物たちからは、「私(Sさん)が不満や文句を言う背景には、寂しさや病気への不安がある」(患者役)、「Sさんに限らず、人間の怒りというのは外から抑え込めるものではない。だが、怒りという感情は長続きするものではないから、 一歩引いて余裕をもった対応をしたらどうか」(薬局長役)、「Sさんが、薬が効かないと激しい口調で言うので、つい反論や弁解をしたくなるが、呼吸がどう苦しいのか、時間帯で苦しさが変わるのかなどを尋ねたほうがよい」「Sさんの生活全般に興味をもつことで会話が広がり、Sさんの物語りは豊かになるのでは」(主治医役)、など、事例提示者が思いもしなかったアイデアや提案が述べられた。さらに医師との連携、患者や家族の気持ちへの配慮にまで話は及んだ。
事例提示者は「あたかも」登場人物との会話の中で、「Sさんの怒りを何とか抑え込んで、薬剤師の言うことを聞いてもらう」という考え方から離れて、「Sさんの怒りっぽい態度にばかりとらわれないで、その奥にある病気や生活のことをSさんが話せるようにする工夫をしよう」という方向性を見出していった。それは、事例提示者にとって予想外の変化であった。しかも、それは「あたかも」登場人物から説得された結果ではなく、会話の積み重ねと広がりの中で自然に起きた変化であった。
最終プロセスであるディスカッションでは、「あたかも」の立場を離れ、参加者が日ごろ臨床現場で、また生活の中で感じている問題点が語られ、より実践的な内容を含むものとなった。
ハーレーン・アンダーソンが述べていたように、目を輝かせて一生懸命に話す姿(無知の姿勢)とそこから生まれた会話の思いがけない展開が新しい物語りを創造して「問題を解消」した― 参加者それぞれがナラティブの可能性を体感し、ワークショップは終了した。