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監修 東京証券業健康保険組合診療所薬剤部長 中村幸一 先生
執筆 東京大学医学部附属病院薬剤部 柳原良次 先生
注射薬の混合調製は、薬剤師の職能を遺憾なく発揮すべき業務の1つです。注射薬は単独で用いられるよりは、むしろ輸液類に配合されて投与されることが多く、組成・成分の比率、濃度、時間、混合順序などにより、その配合変化のメカニズムをより複雑にしています。用法・用量(投与速度など)、相互作用、禁忌症、副作用などに関する情報提供やモニタリングなどももちろんですが、配合変化に関する知識を生かした混合調整は、単に看護師業務の軽減にとどまらず、医療安全に貢献するための重要な役割と言えます。薬剤師は、注射薬に関する投与方法および配合変化の要因などを十分理解して情報を収集し、より実践的に活用できるように努めなければなりません。
注射剤は、通常単剤で使用することを想定して開発され、単独で安定性が維持できるよう製剤設計されています。また、難溶性の薬物などでは、溶液とするために溶解補助剤の使用やpHの調整など、製剤的に工夫されている注射剤が多くみられます。したがって、注射剤は他剤と混合することにより個々の安定した環境が破壊される可能性があります。一方、臨床現場では、注射針を穿刺することによる患者の苦痛軽減や、投与時間の短縮、注射薬の切り替え操作の軽減や省力化のために、2種類以上の注射剤を混合して投与する場合があります。このように2種類以上の注射剤を配合(混合)することで生じる物理的、化学的な変化(反応)を配合変化と言います。
配合変化には、外観で判別可能な沈殿や結晶析出以外に、外観に変化がなくても含量や力価が低下して期待する効果が得られない場合があることから注意が必要です。通常、配合変化には容器や点滴ラインなどの医療機器との相互作用も含まれますが、今回は注射剤どうしの配合変化についてのみ解説します。
配合変化は、温度、時間、光などによって影響を受けます。特に薬物どうしの反応は、温度が10℃高くなれば速度が2~3倍速くなると言われているため、一般的に混合後の保存は冷所が望ましいとされています。
薬液が混合される過程には、(1)投与前に混合する方法(シリンジ、トランスファーニードル、連結管などを使用)、(2)投与時に混合する方法(側管法、ピギーバック法、タンデム法)があります。投与前の混合は、希釈効果が期待できるため配合変化を起こしにくいという利点はありますが、混合した状態が長時間持続することによる結晶析出や含量低下を生じる可能性があります。また、投与時に混合する方法では、高濃度の薬液が接触することにより配合変化の原因となる場合があります。なお、脂肪乳剤とCa2+など、2価の金属カチオンを含む輸液のような、経時的に凝集する配合変化の場合には、側管から混合して投与する方法が有用です。
配合変化には主薬ばかりでなく、注射剤に含まれる添加物(溶媒、安定化剤、防腐剤、pH調整剤)が関与する場合も多くみられます。また、配合変化を生じる反応様式は、加水分解、酸化・還元反応、酸・塩基反応など多様で、それぞれの反応でpHや添加剤などが複雑に関与しています。
注射剤のpHを変動させ、外観変化が著明になった時点のpH(変化点pH)から0.2試料側にある、外観変化がまったく認められないpHの値を臨界点pHと言います。
注射剤をpH7.4に中和するために要する塩基の量を示します。注射剤では有効成分の安定性を考慮して、有機酸などを用いてpHが調整されており、滴定酸度に大きく影響します。
注射剤には、難溶性の薬物を可溶化するために親水性の非水溶性溶剤や、酸化を防止し製剤の安定性を図るための抗酸化剤(亜硫酸塩など)などの添加物が含まれていることが多く、配合変化に関与する場合が少なくありません。
主薬の水に対する溶解度が低い場合には、有機溶剤(エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなど)を用いて溶解しています。このような注射剤では、他剤との混合で有機溶剤が希釈されることにより、溶解性が変化して結晶が析出します。たとえばジアゼパム(セルシン®)は、20倍希釈以下では直ちに沈殿が生じます。一方、フェニトイン(アレビアチン®)の希釈は生理食塩液、水で4倍までとされていますが、生理食塩液であれば1アンプルあたり100mLで希釈しても24時間結晶析出が認められないことが確認されています1)。
オメプラゾール注(オメプラール®)は、溶解時のpHが9.5~11.0であるため、pH5.28以下になると沈殿を生成しますが、似たようなpHを持つソルデム®3A(規格pH5.0~6.5:6時間後に懸濁)、ソリタ®T3(規格pH3.5~6.5:直後に懸濁)、5%ブドウ糖液(規格pH3.5~6.5:6時間まで外観変化なし)に対して異なる配合変化を示します。この配合変化の差は、滴定酸度の違いが関係していると考えられています(表1)。

ガベキサートメシル酸塩は、抗酸化剤として多くの注射剤(表2)に含まれる亜硫酸塩によってエステル結合の加水分解を受けます。ほかに亜硫酸塩による分解を受けやすい薬剤として、ナファモスタットメシル酸塩、塩酸チアミン、インスリン、ウロキナーゼ、カルペリチドなどがあります。塩酸チアミンはTPN製剤などの栄養輸液に混合して投与されますが、亜硫酸塩の含量は各TPN製剤で異なり、加水分解による含量低下は亜硫酸塩含量に相関することが示されています2)。

アンピシリン注(ビクシリン®)はブドウ糖による還元作用で分解するため(冷所保存で4時間後約85%)、5%ブドウ糖液に溶解する場合は使用直前に溶解し、溶解後は速やかに使用する必要があります。
乳酸リンゲル液(ラクテック®など)にはカルシウムが含まれることから、リン酸塩を混合すると酸・塩基反応によりカルシウムリン酸塩の沈殿を生じます。リン酸はpHの変化により異なるカルシウムリン酸塩を生成し、水に対する溶解性が変化します(図)。したがって、同じ乳酸リンゲル液でもブドウ糖が含まれpHが低い製剤(ラクテック®Dなど)の場合には、リン酸塩の混合による配合変化が起きにくいと考えられます。

配合変化には、主薬や添加剤以外にもpH、温度、濃度など多くの因子が関与しています。配合変化を回避するには、注射剤の組み合わせばかりでなく、濃度や液性の変動、使用環境などの情報を把握する必要があります。